母についての妄想

私が中学生のころ、母はブログを読むのにハマっていた。


芸能人のブログなどではなくて、いわゆる「主婦ブログ」というか、「今日こんなお料理作りました」とか、「夫と子供とどこどこに行きました」とか、そんな感じの。
そのうちのいくつかは私も好きで、気が向いたときは私もチェックしていた。
(当時はパソコンが家族4人共有で、母は自分のアカウントにパスワードをかけていなかったので、いつでも母の「お気に入り」からそれらのブログを見られた。)

 

中でも好きだったのは、ハイカラなおばさんがやっている 小さな幸せ みたいなタイトルのブログだった。
そんなタイトルのくせに、幸せが全然に小さくないよね、と母とよく話した。
生活水準で言えば、上の下以上。しょっちゅう旦那さんと旅行に行き、クリスマスはヨーロッパで過ごし、お友達とバラ園に言ったり、趣味で香水瓶を集めたり、幼いお孫ちゃんにこじゃれた焼き菓子を作ったり……「これ、めっちゃ幸せじゃん」と羨んだ。

そしてそのブログのすごいところは、記事の書き方が全然自慢っぽくなく、嫌味じゃないところだ。

育ちのいいお嬢さんのままおばあちゃんになった女性が、普段の日記をなんとなく公開するとこんな感じになるのかな、私(たち)には届かない世界の話だな、と思った。
よく行くお出かけ先から、おそらく私の実家とさほど遠くない距離に住んでいると考えられ、しばしば彼女が行ったというお庭や展覧会に行ってみたりした。そうしても、なぜか、彼女と私(たち)は生活している世界が、微妙に違うように感じた。
サイトのデザインを、歳に合わない、「ピンクハウス」みたいなものしちゃうことだって、私(たち)にはできないだろうな。

 

まあ、とにかく、とっても素敵なブログだったのだ。

 

先日、久々にそのブログが見たくなって、検索をかけた。
そうしたら、出ること出ること、 小さな幸せ 系ブログの山。(しかも当たり前だがどれも「小さ」くない!)
そんな中、何とかして例のブログを見つけた。
しかしそれは数年前から更新がストップしていた。
更新が滞る前の記事を見ると、旦那さんの体の調子がすぐれず、通院に付き添っているとある。
そのまま旦那さん体調がよくならず、介護などで忙しくなったのだろうか。ブログの更新をする時間や元気がなくなったのだろうか。以前のように、デートやおでかけをしていないのだろうか。もしかして、彼女自身も体調を崩されたのかもしれない。いや、それこそ亡くなっているのかもしれない。
などと、縁起でもない勝手な想像をした。

 

私が実家を離れている間に、気づいたときには母の「お気に入り」から例のブログはなくなっていた。
母は、いつ頃まであのブログを追いかけていたのだろうか?
更新が滞るまでだろうか、もっと早く飽きたかもしれない、でも、更新が滞ってからも1年くらいはチェックしていたかもしれない。
そうだとしたら、母はどう思っただろうか。自分と20歳くらい離れていて、自分が同じ場所に行っても同じ料理を作っても、自分とはきっと違う世界を生きてる感じのする女性が、姿を見せなくなったことについて。
自分の生活している世界と近い現実みたいなものに戻ったと感じただろうか。

 

なーんてね。